はじめに
「Novelitas」は、「ノベルゲーム×教育」をテーマとしてノベルゲーム型のデジタル講義、「ノベルゲーム型授業」や「ノベルゲーム型研修」を開発するプロジェクトである。2023年にノベルゲーム型授業の制作に取り掛かりはじめ、累計で数十本程度のノベルゲーム型授業を制作してきた。
背景と問題意識
ノベルゲーム型教材の制作を行うに至った背景としては、動画のフォーマットを使用したデジタル講義、「動画授業」に対する問題意識があった。
動画授業は、eラーニングにおける中核とされており、この制作により教育格差の解消を目指す団体なども存在する。
しかし、動画授業には主に3つの大きな課題があると考えられる。
1.インタラクティブ性の不足
動画授業は、受講者がボタン操作をしたり、クイズに答えるといったインタラクティブ性を実装することが、メディアとしての性質上極めて難しい。言わば動画授業はパッシブ・ラーニングに属する学習体験であり、学習者の内容の理解促進や学習満足度を得られにくい可能性がある。
2.アクセシビリティにおける課題
動画はデータとして比較的重量なコンテンツであると言え、視聴する際は通常Wi-Fiの使用が想定される。この観点により、通信環境、インフラの整備されていない地域、環境でのアクセスが限られている可能性がある。
3.インクルーシブ性における課題
個々の動画授業に逐一字幕を用意する作業は、特に時間面でのコストがかかり、省かれる場合が多いと考えられる。
動画プラットフォームにおける字幕生成システムの発展も著しいが、話し手の話し方や声のトーンが明瞭でなければ機能しない場合もあるだろう。このことから、聴覚障害、難聴などを抱える学習者がその恩恵を受けることができていない可能性が高い。
このように、動画授業はいくつかの改善されるべき課題を抱えていると考えられるが、これらを動画授業のフォーマットそのままで解決することは難しいと考えられる。
そこで解決策として、ノベルゲームのシステムを使用した「ノベルゲーム型授業」を提案する。
ノベルゲーム型授業のインタラクティブ性とインクルーシブ性
ノベルゲーム(Visual Novel, ビジュアルノベル)とは、文章として表示されるナレーションやキャラクターとの会話を読み進め、ユーザーが選択肢を選んだりといった操作を加えることでストーリーを進めていくゲームの種類である。
このユーザーインターフェース、システムを活用した「ノベルゲーム型授業」は、インタラクティブでインクルーシブなデジタル講義になる蓋然性が高い。

上画像はNovelitasで制作されたノベルゲーム型授業のModel-1である。特徴としては、テキストベースで構成されている点であろう。なお、開発にはテキスト生成AIであるChat GPTを使用した。
ユーザーインターフェースとしては、動画授業とそこまで変わらなく見えるが、最も特徴的であり、動画授業と一線を画すのが、画面下部のダイアログボックス(テキストボックス)の存在であろう。
これはノベルゲームにおいては、主にナレーションや、キャラクターとの会話、心理描写などの表示に使用されると言える。
Novelitasのノベルゲーム型授業では、このダイアログボックス・エリアに、授業のスクリプトがタイプライター・アニメーションを伴って1文字ずつ表示される。
これにより、先述の聴覚障害や難聴を抱える学習者らに必要な情報を視覚的に楽しい形で表示することができると考えられる。
このModelでは、受講者は、「次へ」ボタンを押すか、ダイアログボックスをクリック(スマートフォンなどの場合はタップする)ことでスクリプトを読み進めていくが、対応してプログレスバーが満たされることで、進捗を確認することが可能になっている。
このボタン操作は、動画授業にはないインタラクティブ性の1つであると言えよう。小さな違いにも思えるが、ボタンを押さないと次に進めない仕様により、ユーザーのエンゲージメントを高めることが期待できるだけでなく、授業の一字一句を理解した上で次に進むことができることから、授業内容に対する理解が促進される可能性が高いと考えられる。
このModelでは、授業の最後に数問のクイズが出される。これも動画授業では実装が困難なインタラクティブ要素である。動画授業においてもクイズそのものを出すことは可能だが、ユーザーの選択に対してフィードバックを与えることは極めて難しいと言えるだろう。ノベルゲーム型授業であればそれは容易である。
なお、Novelitasでは板書に画像を使用するタイプのノベルゲーム型授業のMVPも制作している(下画像)。これも開発にはChat GPTを使用した。

こちらの方が本来のノベルゲームに近く、受講者の体験を向上させることができるだろう。
ノベルゲーム型授業の軽量性
ノベルゲーム型授業は、技術的にはHTML/CSS+Java Script(+画像)で作ることができる。
基本的にテキストで構成されていることから、動画授業と比較すればかなり軽量になる可能性が高い。
先に登場したModel 1は、1コマ(5分弱程度での消化を想定)の授業で12-15KBとなっており、インタラクティブなコンテンツとしては軽量である。
5分程度の動画授業が、画質等にもよれど、数十MB〜数百MBであることを考えると、このModel 1は単純計算で理論上少なくとも同程度の動画授業の数千倍程度は軽量になり得ると言えるだろう。
現在開発途上の、板書に画像を使用するタイプの「Model 2」は、画像の使用によりModel 1よりは重量になってしまうが、それでも画像3枚程度の授業で450KB程度であることを確認している。
こうした圧倒的な軽量性から、Wi-Fiがなくともアクセス可能なデジタル授業を実現できると考えられ、さまざまな地域、環境でのアクセスが期待できると言えよう。
Novelitasのノベルゲーム型授業は現状音声を実装していないが、インクルーシブ性の観点から音声をつけるとしても、wavファイルではなく圧縮したmp3ファイルで音声を追加すれば、アクセシビリティを大きく損なわないと考えられる。
また、ノベルゲーム型授業はいつでもHTMLファイルをアップロードし直せばアップデートが容易である。動画授業が一度完成、アップロードした授業を修正、アップデートすることが難しいことを考えると、これもノベルゲーム型授業の強みと言えるだろう。
おわりに
昨今は生成AIの発達が著しく、人間が主にAIで学ぶようになる日が訪れるかもしれない。
この観点からも、動画授業からの転換というものはいつか訪れるフェーズかもしれない。動画はメディアとしての性質上、AIを組み込むことが難しいからだ。
ノベルゲーム型授業はプログラミングによって制作された授業であり、AIとの相性は非常に良いと言えるだろう。
例えば、ノベルゲーム型授業のプログラム内に、テキスト生成AIのAPIを組み込むことができれば、テキストとして生成された授業をノベルゲーム型にしてアウトプットする「ノベルゲーム型授業ジェネレータ」を作ることができるだろう。
こうしたことからも、ノベルゲーム型授業という概念は、eラーニングを次のレベルに押し進める上で1つのヒントとなりうると考えている。
ノベルゲーム型授業という概念をプロジェクトを通して浸透させることで、教育格差の解消、教育の未来を築くことに貢献したい。
